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INDIE Live Expo Letter vol.2バックナンバー公開

INDIE Live Expo実行委員会より、インディゲーム開発者向けのゲームの宣伝と開発に役立つ情報をお届けするメールマガジン「INDIE Live Expo Letter」vol.2として2021年8月に配信した内容を、公式サイトにて公開したことをお知らせいたします。

今回は、INDIE Live Expoで「世界のインディスタジオ」をお届けしているゲームライター徳岡正肇さんより寄稿された、とにかく人手の足りないインディゲーム開発者のためのマーケティング講座の模様をお伝えします。
「自分のゲームを広く知ってもらいたいけど、どうしていいかわからない」という方のため、マーケティング目標の設定法や、自分に合ったマーケティングツールの選び方などをご紹介します。

なお、次回配信【INDIE Live Expo 効果検証(予定)】は2021年9月中を予定しております。以降のバックナンバー公開は現在未定ですが、メールマガジン登録者の皆さまには、今後もインディゲーム開発にとって有用な情報をお届けします。この機会に、「INDIE Live Expo Letter」にぜひご登録ください。

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<INDIE Live Expo Letter vol.2 バックナンバーを公開>

INDIE Live Expo Letterを購読いただき、ありがとうございます。
本メールマガジンは、INDIE Live Expoの活用方法や、開発者向けのお役立ち情報をお届けするために創刊されました。
第2号では、INDIE Live Expoで「世界のインディスタジオ」をお届けしているゲームライター徳岡正肇さんより寄稿されたGDC2021のレポートを紹介します。
インディゲームのマーケティングを考える上で大変示唆に富んだ内容になっていますのでぜひご覧ください。

■GDC2021におけるインディゲームのマーケティング講演レポート

取材・文/徳岡正肇

2021年7月19日~23日の5日間に渡り、アメリカ・サンフランシスコのモスコーニセンターにてGame Developers Conferenceが開催された。
このイベントは世界最大のゲーム開発者向け技術カンファレンスであり、第1回が1988年にクリス・クロフォード(「Balance of Power」などを作ったアメリカの有名なゲーム開発者)の自宅で開催されて以降、年々その規模を拡大し続けてきた。
新型コロナウィルスの影響でオンライン開催、今年はオンラインとリアルでのハイブリッド開催となったが、世界最高峰のゲーム技術カンファレンスと目されるだけのことはある、優れた講演が目白押しとなっていた。
インディゲームに対する注目の高まりとともに開催されるようになったIndependent Games Summit(インディゲーム開発に特化した講演を1日中行うイベント)は、本メールマガジン読者にとっても有益な講演が多かったように思う。
ここでは「Don’t Be a Copycat: Personalized Marketing for Your Game」(「猿真似で終わってはならない――あなたのゲームのための、個別化されたマーケティング」)と題された、インディゲームのマーケティングに関する講演を1本、ご紹介したい。
登壇したのはSpoke & Wheel Strategyの創設者であるDana Trebella氏と、Derek Lieu Creativeのクリエイティブ・ディレクターであるDerek Lieu氏だ。
Trebella氏はこれまで「Neo Cab」「Orwell」「Keep Talking and Nobody Explodes」といった作品のマーケティングに携わってきていた。
またLieu氏は、「Noita」「Manifold Garden」「Half-Life: Alyx」といった作品のマーケティングに協力している。

1.マーケティングの目標をはっきりさせる

インディーゲームに限らず、現代的なマーケティングにおいて最も問題となるのは「やるべきことが多すぎる」ということだ。
例えば一口に「SNSで広報する」といっても、SNSにしたってTwitterやFacebookを皮切りに大手とされるものでも無数にある。
またYouTubeは絶対に無視できないし、InstagramやTiktokといったサービスも影響力を持っているし、海外ではRedditも有力だ(日本であればNoteを利用するケースも増えてきている)。
これらすべてに対して、ネットで語られる「こうするべき」をやろうと思えば、労力(時間)も費用も莫大なものとなる。
一方、インディーゲーム開発者にとってみれば時間もカネも有限であるのみならず、その限界点も低い。
効率的にリソースを使わなくては、意味のあるマーケティングは到底不可能だ。
では、どうしたら効率的なマーケティングが可能になるのか?
そのためには2つの要点があるとLieu氏は指摘した。
1つはマーケティングのツールとして使える、それぞれのツールの特性を知ること。
もう1つは、自分のゲームにとってマーケティングの目標がどこにあるのかを知ることだ。
一方、Trebella氏は「マーケティングの目標」という話になると、ほとんどの人は「○○本、売るのが目標です」という話しかしなくなると指摘する。
確かに売上金額や本数はマーケティングにおいてひとつの大きな指標とはなるが、それで目標のすべてが定義できるわけではない。
どういう人達に、どういう感情を抱いてもらい、どういう行動を起こしてもらいたいのかは、ゲームを作る人それぞれに異なっている。
またゲームの内容や傾向によっても、ふさわしい目標は変わってくるものだ。
この「それぞれの目標」をはっきりさせることが重要な第一歩となる。

2.見つける・シェアする・追いかける

ゲームにおける「マーケティング」において実際に何をすべきかということも、具体的に把握している必要がある。

マーケティングと呼ばれる行為によって広める情報には様々なものがあり得るが、ことゲームという話になった場合、ポイントは以下の3つにまとめられるという。
  • ゲームを見つける
  • ゲームの情報をシェアする
  • そのゲームの最新情報を追いかける
ゲームのマーケティングとは、この3つの「実際の手段」を提供することだ。
従って、これは広告宣伝の基本となるが、「これに興味を持った人は、何をすべきかを明示する(Call to Action)」は絶対に欠かせない。
「○○で検索」「資料請求のお電話は~」といったTVCMでしばしば耳にする言葉や、「高評価・フォローをよろしくお願いします」といったYouTube動画の締めの定型句は、いずれもCall to Actionの一種だ。
その上で、「誰に何を伝えるか」という点についても、特に「誰に」という点をちゃんと考えた情報提供をしなくてはならない。
例えばメディアに情報を提供する(最近では実況者も重要なメディアだ)場合は、彼がその情報を使って「語り直す」のが容易であることを意識する必要がある。
Webメディアであればゲームの内容が伝わりやすい、様々な種類のスクリーンショットや動画リンクは必須だし、(絵なしにWeb記事は作れないと考えておいたほうが良い)ゲームのタイトル・作者の名前・発売予定時期(未定なら未定という情報は重要)・プラットフォーム・価格といった定型的な情報も欠かせない(何が必要になるかは、各メディアが掲載している紹介記事から逆算できる)。
一方でゲーマーに向けて情報を提供するのであれば、その情報を見たゲーマーが「このゲームを遊んでみたい!」「買いたい!」と決断できるようになる情報のほうが、より重要になる。
こうなるとスクリーンショットの数があれば良いというわけではないし、あまりに長尺なPVも効果的ではない。
いずれにしても重要なのは、「その情報を流すことで、どういう結果を得たいのか」を具体的に、はっきりさせることだ。
それはまた、「自分のゲームにとって、どういう結果が必要なのか」を踏まえたものでなくてはならない。
「こういうことをしろと言う人が多いから」でマーケティング施策を決めるのではなく、自分で決めることが、最も重要なのだとTrebella氏は指摘した。

3.マーケティングツールあれこれ

さて、ここからは実際のマーケティングツールについての解説となった。
それぞれのツールは「作業量」「維持コスト」「重要性」の3項目について、5段階で評価されている。1は少なく、5は多いことを意味する。
作業量は、そのツールで提供するコンテンツを制作するために必要となる労力(時間と費用)、維持コストはそのツールを意味あるものとし続けるために必要となる労力、重要性は優先順位だ。
以下、ざっくりと要約してお届けしよう。
・メッセージ策定:
「何を伝えるか」を決める。
スクリーンショットもトレイラーも「何を伝えるか」の意思が固まっていなくては効果的なものにはならない。
短く、明瞭な言葉で、自分のゲームの特徴や要点を記述する。
作業量:4 維持コスト:1 重要性:5
・マーケティング計画:
何をどういうタイミングで広報していくのかの計画を立てる。
リリース時期については、可能な限り現実的なプランを採用することが重要。
ゲーム制作者とマーケティング担当が別れているなら、マーケ担当は制作者と膝を詰めて話す必要がある。
業量:3 維持コスト:3 重要性:4
・プレスキット:
1つの圧縮ファイルに、紹介文・スクリーンショット・動画などすべてを同梱しておくこと。情報を詰め込みすぎると逆効果。
スクリーンショットは5~7枚程度で十分。
作業量:2 維持コスト:2 重要性:3
・プレスリスト:
誰(あるいはどういうメディア)なら自分のゲームを取り上げてくれそうかのリストを作り、更新し続ける。
自分のゲームに似たジャンルのゲームを取り上げてくれているメディアや実況者を調べると効率的。
作業量:4 維持コスト:3 重要性:4
・プレスへのメール:
メディアや実況者に対して自分のゲームをアピールする。
自分のゲームを取り上げることによるメリットが示せるとなおよい。
作業量:4 維持コスト:1 重要性:4
・Twitter:
将来的に自分のゲームを遊んでくれる人たちとコミュニケーションを取る場として優れているほか、ゲーム制作のプロ(ないしメディアの人間)と接点が持てることもしばしばある。
GIFによる短い動画が効果的。ただし維持するのは大変。
作業量:3 維持コスト:3 重要性:2
・アナウンス・トレイラー:
自分のゲームに興味を持ってもらう、入り口として有効。
Steamのウィッシュリストへの導線が必要。
メディアに露出する機会としても有益。
作業量:5 維持コスト:1 重要性:5
・ローンチ・トレイラー:
ゲームをリリースするときに作る動画。
ゲームを買いたくなるような動画に仕立てることも大事だが、このゲームがどこで購入できるのかを伝えることが最も重要。
「この先にどんなゲーム体験や物語が続くのだろう?」と感じさせるように作る。
作業量:5 維持コスト:1 重要性:5
・スクリーンショット:
SNSでの拡散に向いている。プレスキットには必須。
ただしゲームの制作が進むにつれて従来とは違うスクリーンショットが増えていくこともあり、プレスキットの内容物も含めて、定期的に更新していく必要がある。
作業量:3 維持コスト:2 重要性:5
・ストアページ:
Steamページなど、実際にゲームを購入してもらうにあたってユーザーが最後に見るページ。
ゲームのジャンルを明示することが重要。
実際にどんなゲームが遊べるかも具体的に、短GIFなども駆使して伝えたい。
作業量:2 維持コスト:2 重要性:5
・ストアとメタデータ・タグ:
適切なタグを設定しておけば、検索による発見がより容易になる。
またSteamが自動的に「類似のゲーム」としてオススメしてくれることも増える。
ジャンルを示すタグは積極的に採用したい。
作業量:1 維持コスト:1 重要性:4
ここまでは限りなく必須に近いツールとなるが、以下のツールは「あると良いが、無理に使ったり作ったりする必要はない」ものとなる。抜粋してお届けする。
・TikTok:
最近とても熱い。ただし手間はかかるし維持も大変なので「できればやってみたらどうか」という範囲。
Youtubeのゲーム動画はゲーマー以外に刺さることがまず考えられなくなっているが、TikTokは非ゲーマーがゲームを買うきっかけになりやすい。
作業量:3 維持コスト:2 重要性:3
・公式サイト:
実のところユーザー向けにはあまり意味がない。
だが投資家やパブリッシャに対するアピールは高く、マーケティングの目的が「パブリッシャーを得ること」であるならば、作ったほうがよい。
作業量:3 維持コスト:2 重要性:1
・Discord:
何から何までものすごく大変だが、コアなファンを作って維持することにかけては最も強い。
ただし本当に何から何までものすごく大変。
作業量:5 維持コスト:5 重要性:1
・オンラインイベント:
ゲーマーからの注目と、Steamでのウィッシュリストは得られやすい。
実際のところ、イベントによって重要性は上下するだろう。
作業量:4 維持コスト:2 重要性:3
・リアルイベント(ゲームショウなど):
メディアとの繋がりが得られやすい。
メーリングリストへの登録も増やしやすい。
ただし何かとお金がかかりがち。
作業量:5 維持コスト:2 重要性:2

4.なにもかもをするのではなく

さて、なかなかボリュームのあるリストとなったが、これは決して「これを全部やりましょう」という意味ではない。
まずは以下の4点について、自分なりのマーケティング戦略を組み立てる必要がある。
・リソース:
どれだけの時間やカネを使えるのか?
・スキル:
自分自身の手でどれほどの品質のものを作れるのか?
・自分のコミュニティ:
もしすでに自分のゲームを支持してくれるコミュニティがあるなら、彼らにどう新作をアピールするのか?またそのコミュニティは自分の新作となるゲームのジャンルを好んで遊ぶのか?
・目標:
売上だけが目標ではない。パブリッシャーを得るなど、目的によって使うべきツールは異なってくる。
その上で「それによって得られる効果」と「それを自分がどれくらい上手くやれるのか」には、だいたい同じ程度の価値があるとTrebella氏は語った。
例えば「メーリングリストを作る」ことの価値を10段階評価で6と見積もり、「自分がメーリングリストを上手く管理し続ける」ことの可能性を10段階評価で7と見積もったら、この施策のスコアは13と評価する、というわけだ。
これは少し想像していただければ、容易に首肯できることではないかと思う。
なるほど、公式Twitterアカウントを作って情報を発信するのは重要だ。
だがもしそのアカウントが半年も更新されていなかったら、せっかく自分のゲームを発見し、興味を持って公式アカウントを見た顧客は、どう思うだろうか?
一般的に言えば「ああ、このゲームはエタった(開発が永遠に止まった、のスラング)のだな」と感じるのではないだろうか。
このように「上手くやれる」ことは、そのマーケティングツールそのものが持つ力と同じくらいには、意味があるのだ。
このため上記のリストにおいても、「維持コスト」には特に注意すべきだ。
Trebella氏とLieu氏で維持コストの評価は微妙に違っているが、Trebella氏の維持コスト評価としては「リアルイベント」「メーリングリスト」「プレスリスト」「TikTok」は「高」、「Discord」「Twitter」は「非常に高」で、「高」からは1つだけにしたほうがいいし、「非常に高」に手を出すときは覚悟を決めて手を出したほうがよいと指摘した。
また、それぞれのマーケティングツールには、異なるマーケティング機能がある。以下、分類してみよう。
・ゲームを見つかりやすくする:
ストアページ・タグ・セールへの参加・Imgur・TikTok
・ゲームの良さを訴える:
トレイラー・GIFアニメ・スクリーンショット・公式サイト・Instagram
・自分のゲームについて説明する:
メッセージ策定・リアルイベント・オンラインイベント・プレスキット・プレスへのメール・メーリングリスト
・コミュニティを形成する:
Twitter・Discord・Facebook
上記4つのカテゴリに対し、うまく4つ全部をカバーできるように施策を選んでいくと、効率のよいマーケティングが可能となる。
このためにはSNSないしDiscordという修羅場に突入しなくてはならないのは悲しい現実ではあるが、上記の分類はあくまで「最も強い点」であり、たとえばメーリングリストはコミュニティ形成にも利用できる(一方、メーリングリストによって自分のゲームを見つかりやすくすることはできないわけで、「これは絶対に無理」なところを把握しておくことも重要だ)。
講演の最後に、Trebella氏は「マーケティングを考えるときには、『~するべき』という言葉を抜きにして考えたほうが良い」と指摘。
「誰かがやっているから、自分もやるべきだろう」という方向性は最悪であると強調した(この点はLieu氏も重ねて強調している)。
またLieu氏は「自分のゲームのためにはこれとこれとこれが必要」という形で最初から巨大な計画を立てるのではなく、まず1つ試してみて、上手くいったところから枝葉を広げていくべきだと語った。
様々な媒体で実験し、トライ&エラーを繰り返して、上手く行ったところを基点にして他の施策へとつなげていくというわけだ。
また、同じコンテンツ(動画その他)であっても、公開するプラットフォームを変えただけで大ヒットすることもあるということなので、この点についてもトライ&エラーは欠かせない。
その上で、マーケティングはゲームの一部であり、ゲームがリリースされる前にプレイヤーを楽しませるのが現代的なゲームのマーケティングであるとLieu氏は強調した。
従って、プレイヤーを騙そうとするようなマーケティングは最悪だし、一方で動画や実況を見た人々が「これは自分向けじゃないな」と思ってしまうことを恐れる必要もない――実際、その人達にとってみれば「宣伝で見たとおり、自分向けのゲームではなかった」ことはポジティブなことだし、このSNS時代において「宣伝では自分向けだと思ったのに全然違った、騙された」という体験が、良い結果を生むことはまずない。

5.レポーターより一言

インディゲームのマーケティングは、往々にして開発者自身が開発リソースを削って行うことになるため、この講演で挙げられたような施策を2つ以上行うことすら極めて困難、ということも珍しくはないだろう。
実際、宣伝素材を作るためにゲーム開発が遅れたということになると、本末転倒も甚だしい。
だが「やるべきことが多い」というのは、「やれることが多い」ということでもある。
登壇者たちが指摘したように、「べき」論で何をするかを考えるのではなく、自分のゲームが実現したい目標を具体的に固め、それを目指して無数の選択肢から1つ選んで、やってみる――この方針は、むしろ現実的であるように思える。
その選択肢の1つとして、INDIE Live Expoも活用していただければ幸いだ。

徳岡正肇さんによるレポート、いかがだったでしょうか。
INDIE Live Expo(オンラインイベント)への出展が、インディゲームタイトルのマーケティングを行う上で、非常に効果のあるツールとなるように、注目度を増大させるための取り組みを続けています。
ぜひ皆さんにも活用いただければと思います。